ラッパ節


    作詞:添田唖蝉坊
    作曲:不詳


いま鳴る時計は 八時半
あれに遲れりや 重營倉
今度の休みが ないぢやなし
放せ軍刀に 錆がつく
トコトットット

大臣大將の 胸先に
ピカピカ光は なんですえ
金鵄勳章か 違ひます
可愛い兵士の しやれかうべ
トコトットット

名譽名譽と おだて上げ
大事なせがれを むざむざと
銃(つゝ)の餌食に 誰がした
元のせがれに して返せ
トコトットット

子供の玩具ぢや あるまいし
金鵄勳章や 金平糖
胸につるして 得意顏
およし男が 下がります
トコトットット

倒れし戰友 抱き起こし
耳に口あて 名を呼べば
につこり笑つて 目に涙
萬歳となふも 口のうち
トコトットット


■ ラッパ節〔元歌・その1〕

わたしや よつぽどあわて者
蟇口(がまぐち)拾ふて 喜んで
家へ歸つて よく見たら
馬車にひかれた ひき蛙
トコトットット

疊(たゝみ)叩いて こちの人
悋氣(りんき)でいふのぢや ないけれど
一人でさした 傘ならば
片袖ぬれよう 筈はない
トコトットット

親の財産 あてにすりや
藥罐天窓(やかんあたま)が 邪魔になる
入れておきたい 火消壺
おこるたんびに 蓋をする
トコトットット

倒れし戰友 抱き起こし
耳に口あて 名を呼べば
につこり笑ふて 目に涙
萬歳唱ふも 口の内
トコトットット

やがて屍(かばね)の 上に照る
月を仰いで 戈枕(ほこまくら)
忽ち聞ゆる 砲(つゝ)の音
敵の夜襲か 小ざかしや
トコトットット

降り積む雪は しんしんと
障子あくれば 銀世界
さぞや彼地は 冷たかろ
思へば涙が 先に立つ
トコトットット

ものに動ぜぬ 保昌(やすまさ)が
節も妙(たへ)なる 笛の音に
靡(なび)く芒(すゝき)の ひらめきや
斬りつけかねたる 袴埀(はかまだれ)
トコトットット

元これ尾張の 一土民
叩きや音の出る 知恵袋
關白(関白)太閤 秀吉と
響く 朝鮮支那の果
トコトットット

たぐひ稀なる 英雄も
たてし叛旗の 色褪(あ)せて
劍折れ彈盡(尽)き 馬斃(たふ)れ
消ゆる城山 松の露
トコトットット


■ ラッパ節〔元歌・その2〕

主の心は 櫻花
私の心は 藤の花(ダガネ)
絡みつくほど 思へども
散りゆく花なら 是非がない
(トコトット マッタクダ)

一輪咲いても 花は花
一夜添ふても 妻は妻(ダガネ)
僅か 草履の鼻緒でも
切れて心地が 良いものか
(トコトット マッタクダ)

泣いて暮らすも 五十年
笑ふて暮らすも 五十年(ダガネ)
泣いて暮らすも 笑ふのも
心一つの 置どころ
(トコトット マッタクダ)

切りやせぬ切りやせぬ 切れはせぬ
切れりや世間の 笑い草(ダガネ)
笑はせ草の 藁草履
藁は消えても 繩殘る
(トコトット マッタクダ)

二つ體(体)が あるならば
一つはあなたの 傍に置き(ダガネ)
後の一つで 働いて
ためたお金は みんなやる
(トコトット マッタクダ)