土佐日記

    紀貫之


男もすなる日記といふものを、女もしてみむとてするなり。それの年(承平四
年)のしはすの二十日あまり一日の、戌の時に門出す。そのよしいさゝかものに
かきつく。ある人縣の四年五年はてゝ例のことゞも皆しをへて、解由など取りて
住むたちより出でゝ船に乘るべき所へわたる。かれこれ知る知らぬおくりす。年
ごろよく具しつる人々なむわかれ難く思ひてその日頻にとかくしつゝのゝしるう
ちに夜更けぬ。